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ピー・アンド・イー・ディレクションズ

2021.07.20
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いまさら聞けないスマートシティ(COALA net - vol9, 2021年夏号)

当社コンサルタントによる『いまさら聞けない』シリーズ。今回は、スマートシティについて解説しています。

―― スマートシティとはどのような取り組みでしょうか。

スマートシティとは、都市・地域を対象に多種多様なデータや最新技術を用いて、生活の効率性や利便性を高める取り組みです。街のあらゆるモノをネットワークに繋げて、居住者がより快適に暮らすことのできる都市を目指しています。

たとえば、渋滞状況や公共交通機関の利用状況から最適な経路や便数を算出したり、街全体の電力消費量と発電所の稼働状況からより効率的な電力の供給と消費を可能にしたり、顔認証データを分析して犯罪の抑制に繋げたり、様々なことができるようになります。

スマートシティは、世界各地に存在し、規模の大小を問わなければ、2000ヵ所を超えるものと推計されています。日本でも内閣府や総務省、経済産業省、国土交通省がスマートシティの開発を推進しており、現在40〜50ヵ所あります。

―― なぜスマートシティは注目されているのでしょうか。

これまで難しいと考えられていた経済の発展と社会的課題の解決の両立が、先端技術の発達によって実現する見通しが立ってきたからです。経済の発展で人々の生活は豊かになりましたが、環境問題や少子高齢化問題、地域間格差問題など、社会的課題が顕在化しています。従来はこれらの両立は難しいとされていました。しかし一方では、IoT(モノのインターネット化)やロボット、AI(人工知能)、ビッグデータといった先端技術が進化しています。ならば、それらを産業や生活に取り入れ、スマートな社会基盤を構築することによって、経済の発展と社会的課題の解決を同時に目指そうというわけです。
特に地方都市では、社会的な課題がより顕著に表れているため、スマートシティに大きな期待が寄せられています。

―― スマートシティはどのように変化してきましたか。

日本で始動したのは2009年頃です。当時は環境都市の側面が強く、主に環境やエネルギーなど、個別分野の特定技術による課題解決への取り組みでした。しかし、それでは都市全体の社会的課題の解決に結びつかない場合が多く、徐々に交通や教育、医療など、複数の分野を横断した形へと発展していきました。

こうした流れを背景にデータの利活用も変わってきています。従来は複数の分野のデータを同時に利用できず、個別分野のサービス提供にとどまっていましたが、政府は分野間のデータ連携の構築を進めています。これによって、たとえば、バスなどの交通事業者は、交通分野の共有データを運行サービスに利用してきましたが、今後は自治体や個人など交通分野外のデータを利用できるようになり、交通需要を予測して最適な運行サービスを提供できるようになるのです。

―― 企業はスマートシティとどう関わっていくべきですか。

スマートシティへの関わり方として、大きく2つに大別されます。プロジェクトに参画してスマートシティの開発を推進していく形と、スマートシティで蓄積された複数分野にまたがるデータを利活用して新商機を獲得していく展開です。プロジェクトへの参画は多少のハードルがありますが、データはすべての企業が活用できるので、企業にはチャンスがあると言えます。

―― 具体的なスマートシティの事例を紹介してください。

たとえば、札幌市はデータの活用によるイノベーションの創出に力を入れています。
官民の様々なデータをデータ収集基盤、『札幌市ICT活用プラットフォーム』に集める仕組みを構築し、自由にデータを利活用できるようにしました。一例を挙げると、市は、市民の匿名加工された生体(身長・体重)データ、個人意識(アンケート収集)データを分析、健康と運動の関係性や傾向を明確化し、利用者個々人に応じた健康増進の情報を提供しています。

福島県会津若松市は、『DATA for CITIZEN』と呼ばれるプラットフォームを設け、公共データを蓄積しています。データをウェブサイトで公開することで多方面での情報活用を促し、地域活性化を図る狙いです。たとえば、誘客の強化や観光客の満足度向上を目的に、宿泊場所や観光ルートの口コミ情報を集め、得られたデータを各事業者に提供してPDCA(計画・実行・評価・改善)の仕組みを構築してもらうのです。これによって、市に宿泊する海外旅行者の数は、2014年の3410人から2019年には2万5012人へと、約7.3倍に増加しました。

―― 地方都市でスマートシティを実現することは可能なのでしょうか。

現状、地方は都市部と比較してインフラ整備が遅れていますが、その分、組織の既得権益が小さく、変化に対応しやすいと考えられています。
つまり、遅れていることがむしろ地方のアドバンテージになります。このアドバンテージを活かしたスマートシティの導入は、今後益々増えていくことが予想されます。地域企業のスマートシティへの対応は、目の前まで来ていると言えるでしょう。

解説:吉本稔(コンサルタント)

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